“イギリスを走る新幹線・・・・”
昨年2009年12月14日より正式な運転開始となりました。この車輌の形式名はClass395(395型)で、技術立国・日本国の純な国産製品です。
(※参考までに近年、高速鉄道車輌として輸出された車種(※受注メーカーは問わずに)は、皆様もご承知のとおりに、東海道新幹線700系車輌ベースの台湾高速鉄路の700T系、そして東北新幹線E2系ベースの中華人民共和国へCRH-2系が有名)
車輌の外観等々から付けられたニックネームは“Javelin”(ジャベリン=投げ槍)。
首都ロンドンと英国の南東地域(ケント州)間での通勤輸送の抜本的な改善と共に2012年のLondon Olympic(ロンドン・オリンピック)開催時には、会場へのシャトル・トレインにも使われます。この車輌の設計と製造は(株)日立製作所が全てを担当し、山口県下松市にある同社の笠戸事業所にて全車両を完成。今から約10年前の日立グループの欧州諸国や英国国内での一般的な印象は、家電の製造&販売メーカーとの認識ばかりだったらしく、地道な営業活動を行い、また鉄道事業部内に英国人のトップを迎え入れ、一段一段確実なステップアップを行い、今回の入札を成功に導かせたと伺いました。
2007年8月23日に最初の4ニット(24両)が英国のサウスサンプトン港に陸揚げをさせ、専属で受け持っていたSerco社が本線上にて約2日間にわたって、数々の試験走行を実施したが、本線上での試験走行では一切のトラブルも無く、予定の最高時速計画も達成。昨年2009年8月17日には、ついに発注をしていた全29編成(※)が揃う運びとなり、第一編成の納入期日の厳守より現地の関係者からは一斉に【日立】に対する高い評価と絶賛の声を日に日に増しながら強くさせ、信頼感の構築がはかられていきます。
※当初の契約では28編成とされていたが、最終的にもう1編成(6両)が追加となり、174両を完納。
尚、Class395(395型)車輌の受注と共に最短7年間(最大で35年の延長可)の車輌保守までも受け持つ予定で、獲得した総額は約700億円との報道も!国内経済が低迷しているのならではのワールドワイドなビジネス展開が素晴らしい!
もしも?この車体を白く塗ってしまうとまるでJR九州の885系【かもめ】やドイツ鉄道の【ICE3】等々にそっくり♪(写真4参照)
(初めてモックアップ車体が一般公開された時の紹介写真を見ると、【かもめ】がそのまんま英国に譲渡されたのかな♪~とも感じた私!)
車輌の基本設計は、日立製作所が独自に開発し、数々の成功を収めている【A-train】という製造工程を簡略化した大変高度な技法に準じながら、車体全般はアルミニウム合金製ダブルスキン構造を本格採用しています。
この事は、従来の英国型車輌と単純な比較をしてみても2~3割程度も総重量が軽くなる為、路線を借りて運行する London&Southeastern(ロンドン&サウス・イースタン)社にとっては鉄道路線を管理している組織(Network Rail社)への支払い代金と軌道への軽減といった二つの大きなメリットが生じています。
前面形状については、わが国の新幹線開発で培われた空力特性に英国のレギュレーションを加え、先頭車輌の前面中央部分には、自動連結器開閉機構と共に衝突時衝撃吸収構造(=アンチクライマー)も標準装備。
(※業界関係者の小話では、先の厳格な二つの安全基準を完全にクリアー出来た入札メーカーが唯一、日立製作所だけだったとの事!)
大型の曲面ガラスの採用と合わせて数々の高度な技術力を一つにまとめあげた姿は特に素晴らしい。
尚、安全基準そのものは、英国内でのRSG(Railway Group Standards)と欧州においてのTSI(Technical Specification for Interoperability)の二つを満たすようにも設計されており、英国はもとより欧州諸国内での汎用性までも考慮しています。
尚、次なる日立グループの目標は、英国国内と共に欧州大陸内での新型車輌の受注獲得を目論んでいるようです。この395型車輌が走行する際にはいずれかの電源方式を選別し、3種の複雑な信号システムも搭載。
1、欧州大陸との間を約3時間で結ぶイギリス国内初の完全な高速新線CTRL{Channel Tunnel Rail Link-=英仏海峡トンネル連絡線=High Speed 1}区間内では、両先頭車輌(連結面の屋根上)に標準で取り付けられたシングルアームより交流25000V(50Hz)を集電。
同じ区間には欧州大陸より乗り入れてくるEuro Star(ユーロ・スター)という旅客列車とのすれ違いもありますが、この395型車輌についても同様に、先のCTRL線内走行時には片方向のみを上げ(※前方の一車輌からのみ集電している率が高い)、最高時速は225km/hで運転中です。
2、従来の南東地域内の各在来線への直接乗り入れも行っているので、直流750Vの第3軌条集電方式も併用。(※日本ならば東京メトロの銀座線等々の集電風景を思い浮かべて下さい)。
最高時速は160km/hと抑えられており、1編成(6両)4台車の両面に取り付けられている専用の白いバーを線路脇に設置済みのサイドレールに触れながら走行。車輌基地はKent(ケント)州のAshford(アッシュフォード)に、車輌保有会社は全車HSBC Rail(HSBCレール)社であり、日々の運行業務を行うのは先ほども書きましたがLondon&Southeastern(ロンドン&サウス・イースタン)社がリース主となっています。これらの地域は今回のClass395(Javelin)が走り始めるまではあまり英国型鉄道の趣味人の間(含む模型趣味人)でも殆ど注目はされてこなかったように感じています。北方向に向かう数多くの有名列車があるような各幹線群とは異なった、ある意味マニアックな地域の鉄道との印象がありました。だた、昨年(2009年)6月29日から始まった運転開始(限定)以降、英国国内の巷でも一様に注目が集まって来ています。
実際、私が昨年現地到着後に真っ先に訪れたLondon St.Pancras(ロンドン・セントパンクラス)駅構内で、デモ運転中(本開業までの約半年間は30分間隔で一部区間)の列車を待つ乗車予定の方々や改札付近にいた鉄道関係の方々にJavelinの感想をストレートで伺ってみたところ、皆一応に開口一番【Wonderful!!】や【Great Train~!!】等々の大変ポジティブな言葉を発せられていました。
(=伺った皆様、“ひたち”と言わずに何故か?“ハイタチ”“ハイタチ”と発音)
乗客の皆様は【特急料金】という乗車時にプラスされる新運賃制度に対しては、いささか困惑と疑問をお持ちになられているようで、早口のクィーズ・イングリッシュで何やらごそごそと口ずさんだ方もおり、聞き手のこちら側(←私)が???と少々困惑しちゃいました。
(※ちなみにこの列車の登場までは英国では無かった制度との事)
世界各国において、今なお“Made in Japan”という名は、今回紹介のこの鉄道車輌に限らず【高度な技術力】をまとめ上げた信頼のブランドであります。私自身、これまで世界各地を旅する先々でひしひしと【身】を持って感じてきました。
今後も引き続き、わが国の持つ数多くの勤勉な人々の工夫は、高度で優秀な製品を生み、世界各地で強い【底力】を発揮させていくと信じています。
最後に、鉄道創始国内で走るJavelinの今後の活躍に期待をし、可能な限りの詳細なデータ&編成表をこの場をお借りして紹介をしておきます!
- 編成番号
- 395001~395029
- 製造年度
- 2007年~2009年迄
- 車体長さ
- 先頭車輌(DTSO)20.65m:中間車両(MS)20m
- 車体高さ
- 3.81m
- 車体幅
- 2.81m
- 座席数
- 6両合計=348席(全車輌2等座席・2席+2席のレイアウト)
DTSO1(28席)、DTSO2(48席)、MS(68席)
- 編成内容
- DTSO1+MS1+MS2+MS3+Ms4+DTSO2
- 列車編成両数
- 基本編成=4M2Tの6両編成で全長は121m
(※多客時には2編成まで連結営業運転が可能)
- 営業最高時速
- HS1運転時・225Km/h (140mph)
在来線運転時・160Km/h(100mph)
- 電気方式
- AC25KV 50HzとDC3kV
- 1編成定格出力
- 3360kW
- オーナー
- HSBC社
- 運行会社名
- South Eastern Trains社
(追記) 現在、英国国内の主要路線で活躍中の私が超~大好きな【IC125】やIC225車両群が近年著しく老朽化をして来ております。
あと3年後の2013年より2018年末までの約5年の間に最大で1400両もの新型高速車輌への置き換えを予定との事。(=あわせて同車両のメンテナンスも含んでいる)この新型車輌は、SET(スーパー・エクスプレス・トレイン)計画と称され、動力機構は全3タイプ(1.電車タイプ 2.ディ-ゼルタイプ 3.電気+ディ-ゼル併用タイプ)、とし、1両の全長は26mmで5両と10両の2種類の編成両数。契約金額が莫大な額となる為、資金調達の面から導入計画は全4期に分け、英国国内の各路線へ本格導入がなされます。この度、日立製作所とAgility Trains(アジリティ・トレインズ)社が2009年2月に英国交通省(DfT)から優先交渉権を獲得しました。次世代の新型車輌については、先のJavelinとは異なる搬入経路で、英国国内の労働者の雇用環境を守るべく、日本国内で製造をした鋼体を現地の専用工場に送り、車体を組み上げる予定。(※)まずは、2013年11月頃に東海岸本線上に量産先行車として10編成がお目見えするし、最高時速は200km/hで運行。今後も英国鉄道界の動きには【目】が離せない~ですョ。
(※)この方法は、所謂ノックダウン方式と称されるやり方です。
一例として鉄道関連では、アメリカ・ニューヨーク市の地下鉄車輌がよく行うやり方です。アメリカ合衆国法では、アメリカ以外の国々で全てを組み立てた、所謂完成品を同国へ直輸入を行った場合には、高額な関税を掛けるが(※サンプル的な物は除外)、個々の素材やパーツのみで輸入をさせ、アメリカ人労働者を使って国内の工場にて組み立てた時には、完成品の通関時よりも著しく低い関税率とさせる独自のルールを行っている。
しっかりと自国の労働雇用を守る・・・明らかに保護貿易ですね。
(同国が一連の金融経済危機前に行っていた→他国に対する過剰な市場開放の請求や行いは今やどこ吹く風???)
【お知らせ】この原稿を書いていた期間に異変が生じてしまいました。
2月中旬に現地で発表されたニュースでは、アメリカ発の世界金融の影響での景気低迷や英国国内の鉄道路線の計画見直し等々により、正式な契約が行われるのは2010年実施の総選挙後の見込みとの事。ただし、すでに優先交渉権を確保していますのでいずれにしても入札は確実。
【参考文献】
RAIL EXPRESS各号・Modern Railway各号・鉄道ジャーナル・鉄道ファン・東洋経済 等々