X2000(X2)と聞いて、少しでも海外の鉄道車輛や模型に興味をお持ちの方、または仕事か?観光か?何らかの用事で実際にスウェーデンを旅され、列車を利用した皆様にはどんな車輛か?すぐではなくてもある程度の色や姿そして形についてはあなたの脳裏に浮かんでくると思います。
このX2000(X2)という列車は、1990年9月より首都のStockholm(ストックホルム)中央駅を起点に、第二の都市のGöteborg
(ヨーテボリ)間、約456㎞を結ぶ為に導入された北欧諸国で最初にデビューした最高時速210km/hの高速列車。1990年の運行開始時は6両編成(機関車+1等車×2+2等車×2+2等ビストロ車×1)。
実際の最高速度は200Km/hですが、森と湖が日本のおよそ1.2倍以上各所に点在し、カーブや勾配が数多く続く在来線を主に走る為に平均時速は150Km/h程。
その後、X2000の列車需要の高まりによって、首都から国内の各都市【南西のGöteborg(ヨーテボリ)以外では、南のMalmö (マロメ)と北のÖstersund
(エステルシンド)方面】等々を結ぶ主要幹線への国内運行だけでなく、2001年1月からはオアスン海峡線の開通によって隣国・コペンハーゲン(デンマーク)への直通運転が拡大した事によって、1998年までの追加発注分を含めれば専用機関車のみで44台【※2012年12月までの広深鉄路(新時速号:広州東~香港・ホンハム間で運用)へのレンタル車を含む】もあり、またこのX2000の専用客車は総数231輌も製造されたスウェーデン鉄道(国鉄)屈指の代表的な看板列車であります。
欧州型の高速車輛としては大変珍しい編成内容で、片側は機関車となり、中間には専用客車を2~5輌挟み、そして最後尾は運転室付きの制御車輛という所謂プッシュプル(ドイツならばペンデルツーク)で、全車輛が車体のサイドにコルゲートの波打ちがあるオールステンレス製。
また先程書きましたように走行する路線網の殆どの区間でカーブが随所に連続するお国柄。
これら、曲線走行時には客車のみですが、車体傾斜機構の搭載を本格採用し、 スピードアップを実現化。この振り子システムは、ABB社(現:
Bombardier:ボンバルディア)の前身であるASEA社が約20年の歳月をかけて開発した独創的な機構で、“X15プロジェクト”として、先ずはこの当時の国鉄が所有をしていた2~3輌編成の3種類のX15型電車を使って、1973年~1982年の間に数多くのデータ収集を行い、続く1987年にはX15-4型車輛との間に、今と殆ど仕様が変わらないX2000の中間車(車体帯グリーン色)を1輌入れての最終確認後、1989年8月18日には、
X2(2001)+UB2(2801)+UB2X(2501)の3両のファースト編成の完成を契機に大量増備への流れとなった。
ちなみに、X2000を使っての国内最高時速については、1993年7月21日に両先頭が機関車で、中間に3両の客車を挟んだ特別編成が276.3km/hを達成。
(編成:X2 2016+UA2G 2730+URA2 2617+UA2G 2731+X2 2017)
X2000編成の車体傾斜機構は、昨今の世界各国で数多く導入され、振り子式の代表選手的な存在のイタリア鉄道のペンドリーノ方式とは異なり、台車枠とリンクで結ばれた振り子梁とボルスターとの間に油圧シリンダーを設け、傾斜時に車体に届く信号を読み取り、油圧シリンダーを作動しながら車体を傾けて走行する仕組み。先頭台車に設けた振動加速度感知装置が曲線進入を自動的に検知し、この信号を油圧シリンダーに送る事によって強制的に車体傾斜するが、機関車自体は振り子を行わない為、機関車側と先頭客車間で応答速度にズレが生じるとの指摘も出ている。
この車体傾斜の機構は全て台車内に上手く内蔵しており、雪の侵入防止や寒冷地対策については万全である。
台車の軸箱についてはゴムサンドウィッチ式軸箱(シェブロン支持)という機構で、元々は英国のロンドン地下鉄の車輛で採用されていたもの。
ゴムと数枚の鋼板を積層しているブロック型で軸箱を支持させ、これらの前後のゴムの硬さを柔らかく調整した事によって、曲線通過時には車軸が常に曲線の中心を向き、軸箱の変化を容認した構造となっている。
1990年9月のデビューから2005年迄はこのステンレス車体をベースに、白、青、黒という外見の装いで長らく活躍をして来ましたが、その後、SJ(スウェーデン鉄道)の営業新戦略の“理由のあるシンプル”、所謂“列車を運転している我々や車輛が常にスポットライトを浴びるように目立つのでは無く、我々の用意した列車に乗るお客様がその時々によって個々に引き立つべき”とのコンセプトから、スウェーデン人のデザイナーにより、Malmö(マロメ)工場にて全面的な改装更新工事が実施された為、現在運用に就いている全てのX2000車輛の外装はクールグレー色が中心となりましたが、他方、客室内は一転“木の温かみ”を最大限重要視したレイアウトの配置となっており、北欧・スウェーデンを象徴しております。
デビュー以降、長い歳月に亘り活動をしてきている同列車群ですが、客車に関しては、時々の運用の増減や編成内容の組み換えによって、車体の基本構成には塗装以外での変化はほとんど生じていませんが、等級の変更により、座席数や内装レイアウトについてはいくつかのバリエーションがあります。
2000年5月12日には、スウェーデン・ヨーテボリに本社を置いた列車運行会社Linx AB社が、SJ(スウェーデン鉄道)と
NSB(ノルウェー鉄道)との間に折半で創設され、翌年の1月より航空機輸送の対抗を目的とした両国間の中長距離輸送の改善を目指した。
このLinx用X2000車輛は、基本が機関車を含めて、5輌編成で構成されていて、大胆な装いの外装色とSifab
AB社(スウェーデンのデザイン会社で、後にNSBのSignature車輛も手掛けた)が請け負った北欧的でとてもナチュラルな高級感溢れた内装を施してのデビューでしたが、結局、営業不振や会社内の諸問題の発生等々によって、残念ながら2004年末で解散となり、”Linx”から戻った車輛に関しては編成替えを行い、現行仕様と同じ外装がクールグレー色に更新をされ、通常のX2000列車に含まれて、現在もSJ(スウェーデン鉄道)として活躍中。
ここでちょっとコーヒーブレーク。
私自身、極東の日本国のX2000愛好家を代表として?ストックホルム中央駅構内のSJ(スウェーデン鉄道)乗客案内専用のカウンターにて、この旅の訪問時に“X2000車輛を見に来たのですが、まだデビュー当時の塗色はあるのですか?“と英語を駆使しながら丁寧に頑張って?訪ねてみました。
このカウンターの席にお座りになっていたのは勿論!SJ職員の大変美しい北欧美人。すぐに余り詳しくはないので・・・との答えが返ってきましたが、心優しいスウェーデンの女性。次の瞬間、“この奥にSJ、特に車輛関係に詳しいスタッフがいるので呼んできます”との事。待つ事・・・約数分、いかにも私たち日本人が想像するような立派な北欧体格で、口の周りはこれまた頼もしく、その上しっかりとお手入れがなされている髭モジャ×2の男性職員が出て来ました。
早速、先程と同じ内容の質問を率直に尋ねてみれば、“残念ながら今のX2000は他のRc6等々の機関車と同じようにクールグレーに変わっている”との事で、むしろ、クールで美的センスのあふれる車輛達を見た方が良いと薦められ、彼からは“日本には、新幹線のような沢山の素晴らしい列車があるよね。何故?君はX2000をここまで見に来たの?“とも逆質問をされてしまい・・・わずかでしたが、少々、異国の地で”鉄“話が盛り上がってしまいました。
例え双方の持っているオリジナルな言葉が異なっていても、共通の言語(この場合は英語)が操れれば、人間間の有意義で楽しい交流が生まれる場面が多々あり、場合によってはお互いの知識等のアップに繋がりますね。
本題に戻ります。
北欧スウェーデンX2000車輛の大成功は、デビューからわずか1年後には周辺諸国のみならず世界各国へ向けて、製造会社との強力なタイアップによって積極的な売り込みの営業活動へ進んでいきましたが、結局はオリジナル仕様での各国への本契約は果たせずに、唯一X2000の最終編成のみは、香港と中国本土との連絡列車として約10年の長期レンタルがなされたが、2012年末に全車両が返却済み。
現在のX2000は最も高いランクの” Snabbtåg”と称された2車種に含まれ、X2列車編成を使用したものは、SJ
X2000として、主に輸送需要の多い幹線系路線(6~7輌編成)のみでの営業運転が中心となっている。
もう一方のX55という新型車輛は、中距離向けに製造されていたスウェーデン鉄道の新型X50~54電車を2010年に優等列車仕様に変更したものとなっており、SJ3000とされ、X2000が運行をしていた時には輸送力が過剰気味で旅客需要が少ない、所謂各地方の路線区間へ主に投入されている。
同車は近い将来に、250km/hの高速新線での運行が予定されているが、まだまだスウェーデンの看板列車は勿論!このX2000である。
【SJ X2000個別車輛ガイド】
- ☆Drivenhet X2(X2動力機関車)
- 形式名:X2000(X2/SJX2000)
営業最高時速:210km/h
電気方式:AC15kV 162/3/AC25kV 50Hz
レール幅:1435mm
車体全長:約17,65m(17.650mm)
車体幅:3.08m
車体高:3.80m
(集電装置含む:4.25m)
列車編成:7両編成時1L6T
重量:18.25t 軸配置Bo’Bo’
連続定格出力:3260KW
製造総数:44台
- ☆Manovervagn(X2運転台付き制御客車)
- 形式名:UA2X/ UA2NXK(1等)
UB2X/UB2NXK(2等)
※CUB2XFK(広深鉄路時)
車体長:約22m(21.980mm)
約22.5m(22.447mm)
車体高:3.80m
製造総数:45輌
- ☆Sittvagnar
(中間客車:2701~2745、2801~2886、2901~2922)
- 形式名:UA2/ UA2K(1等)
UB2N/UB2NK(2等)
※CUB2FK (広深鉄路時)
CUBS2FK(広深鉄路時)
車体長:約25m(24.400mm)
車体高:3.80m
製造総数:162台
- ☆Servicevagn(BISTRO客車:2601~2624)
- 形式名:URA2/ URA2G(1等)
URB2/URB2G/URB2K(2等)
車体長:約25m(24.440mm)
車体高:3.80m
製造総数:24台
【備考】※形式名称の末尾Kはコペンハーゲン 直通対応可能車輛
※写真は全て現行色
【SJ X2000 時代別編成表】
作図作成:須藤直樹(本店3階スタッフ)
【SJ X2000 各国への貸出時の詳細 】
1,1991年7月10日~31日には欧州のスイス連邦鉄道へ1編成5輌レンタル
(車輛番号:SJ X2 2003+UB2 2803+UA2 2709 +URB2 2604 +UB2X 2503)
2,1992年10月~1993年1月迄は、北米・アメリカ合衆国へ1編成6輌を貸し付けて、旅客運行組織のAmtrak社のNortheast Corridor(北東回廊)のNew York
City(ニューヨーク市)-Washington. D.C(ワシントン.DC)にて実際の営業列車として運行。
車体各所にはAmtrakのロゴを貼り付け、また機関車のパンタグラフはこの路線の運行の為に大掛かりな改造を受け、専用品を装備。
尚、同時期には、短期間であれ、Amtrak社へ売り込みを行っていたDB(ドイツ国鉄)所属のICE1とのし烈な売り込み合戦は有名な話。
その後1995年5月中にはX2000 ナショナルツアー列車として各地を巡り、非電化区間の走行では各地でディーゼル機関車を動力源として連結し、隣国のカナダ連邦にも入った実績がある。
(車体番号:SJ X2 2013 +UA2G 2718 +UA2G 2719+URA2G 2609 +UA2G 2810+ UA2X 2511)
3,1995年4月23日~6月18日迄は、豪州オーストラリアのNSW(ニューサウス・ウエルズ)州営鉄道の”Country
link”へX2000の専用機関車は抜きで客車3輌のみをレンタルし、同鉄道所属のXPT(英国HST125ベースの機関車)を特殊なデコレーション専用牽引機として使用し、Sydney
(シドニー)~首都のCanberra(キャンベラ)間を2か月の間にデモ営業した。
(車体番号:SJ UA2X 2520 +URA2 2620 +UA2G 2819)
4,1996年にはスウェーデンの隣国・ノルウェー国鉄へも1編成5輌がレンタルされ、後年NSB(ノルウェー国鉄)がデビューさせたBM71/73型高速電車の完成の基礎を作った。
(車体番号:SJ X2 2037 +UB2FK 2858 +UB2FK 2859 +UBS2FK 2915 +UB2X 2538)
5,1997年~2007年にかけては、香港(ホンハム駅)~中華人民共和国(広州東駅)本土を結ぶ広深鉄路の“新時速(シンシースー)”号という名称の列車として1編成7輌を長期レンタルしたが、スウェーデン鉄道の慢性的なX2000列車不足(※特に客車)により、昨年2012年12月には全車両一括で返却され、リフレッシュ工事後には、生まれ故郷にてようやく営業運転を開始する予定。
(編成内容:X2C+CUB2FK+CUB2FK+CUB2FK+CUB2FK+CUB2FK+X2C)
★主な参考文献
X2000 Enklare an Flyget.Snabbare an taget(SJK)
Svenska Lok och Motorvagnar1991(SJK)
PASSENGER TRAIN JOURNAL 1993年5月号(Interurban Press)
地球の歩き方 北欧2008~2009年版(ダイヤモンド・ビッグ)
地球の歩き方 世界の高速列車(ダイヤモンド・ビッグ)
地球の歩き方 世界の高速列車Ⅱ(ダイヤモンド・ビッグ)
地球の歩き方 ヨーロッパ鉄道の旅(ダイヤモンド・ビッグ)
JTBキャンブックス 世界のスーパーエクスプレス(JTBパブリッシング)
世界の高速鉄道(著者:佐藤 芳彦)(グランプリ出版)
鉄道ファン2002年12月号(交友社)
旅の指さし会話帳30 スウェーデン語(岡戸紀美代著)(情報センター出版局)