J-FACEを作り上げた思い
19世紀、日本の工芸品や浮世絵が西洋で流行し、“ジャポニズム”と呼ばれて持てはやされました。漆文字盤を使用したスイスメイドの高級腕時計が生まれたのも、その流れを受けてのことだと思います。ただ、そのほとんどは画一的な和模様が施された、いわば“西洋から見たオリエンタリズム”にすぎません。
天賞堂は「日本人として漆そのものの美しさを引き出すべき」と考え、別のアプローチを模索しました。世界的に有名な輪島の北村工房・北村辰夫氏との出会いがあったからこそ日本の美しさを追求したJ-FACEが誕生できたと思います。
日本の意匠
漆は古来より、その地域、その時代ごとに新たな技法を積み重ねながら、発展してきた伝統工芸。今もその先端素材、先端技術が器づくりに活かされています。もちろん、文字盤は漆職人の手作りで、真鍮の素材を丁寧に磨き上げ、極めて難度の高い加工が要求される、漆塗面への植字によるインデックス(アップライトインデックス)を実現しています。
また、時計文字盤では初となる漆芸技法の一つである沈金を取り入れました。沈金は、塗面にノミで文様を彫り、漆を擦り込んで金箔・金粉を付着させます。堅牢な輪島塗だからこそ江戸時代に華開いた技法で、漆黒に浮かぶ優美で繊細な意匠が特徴です。
漆は、時が経ち、乾くほどに強固になり、色味の鮮やかさが増すといわれます。つまり長く使用するほど、変化が生じてくる。自身の人生の移ろいを文字盤の色の変化に重ね合わせるという楽しみも、この時計は生みだします。